イギリス生まれの作家バーネットによる「秘密の花園(1909年発表)」の書評です。
子供はもちろん大人にもぜひ読んで欲しい児童文学作品を紹介しています。
「秘密の花園」のあらすじ(冒頭部分のみ)
主人公は、インドで生まれた10歳の女の子メリー。
父親はイギリス人の将校で、たくさんの使用人がいる裕福な家庭でした。
しかし、同じくイギリス人である母親は娘のメリーに全く関心がなかったため、インド人の乳母(うば)がメリーの世話をすることになったのです。
メリーは親の愛情を全く受けることができず、また、何でも言うことを聞く乳母や使用人に育てられたため、わがままで器量がなく、外で遊ぶ事もしない少女になっていました。
しかし、ある出来事がきっかけで、イギリスの叔父のお屋敷にメリーたった一人が移り住むことになったのです。
メリーは、お屋敷の広い庭で一羽の赤いコマドリに出会うことで大きくその人生を変えてゆくのでした。
なぜ「秘密の花園」を読むべきなのか?
1.子供には自然の素晴らしさを教えてくれるから
「秘密の花園」の素晴らしい点は、何よりもまず自然の素晴らしさや生き生きと描いている点です。
メリーが移り住むことになったヨークシャー地方の美しさがありありと表現され、その世界観に引き込まれていきます。
メリーは、自然の営みの奥深さや力強さに触れることで、外で遊ぶ事の楽しさや生きることの喜びを感じるようになります。
インドにいた頃とは全く違う、素朴で活力に満ちたメリーの姿は、この本を読む子供達にも強い共感をもたらすことでしょう。
そしてメリーの成長の物語を通じて、自然の美しさや季節の移ろいに目を向けるきっかけをもたらすことでしょう。
いつも見ていた景色が、読後は少し違った景色に見えてくるに違いありません。
2.子供にとって生きる喜びとは何かを考えさせられるから
親にも読んでほしい最大の理由は、何といっても小説として非常に面白いからです。
メリーの住むイギリスのお屋敷にはたくさんの秘密があります。
その正体を知りたくてうずうずしながら読み進めることができます。
また、どの児童文学にも子供への啓蒙的なメッセージがあるものですが、「秘密の花園」は子供へのメッセージよりも、子供を育てる親へのメッセージを強く感じさせます。
「秘密の花園」には、メリー以外にも子供たちが登場します。
作者バーネットは、誰一人「かわいそうな子」であるとか、「どうしようもない子」として描くことはしません。
むしろ、貧しい子にも、お金持ちの子にも、元気な子にも、わがままな子にも、朝が来れば誰にでも太陽が昇るように、どんな境遇の子も特別視することなくみんな同じ「子供」として描いています。
そして、その子供達は親の教育によって育つのではなく、むしろ自然の中で思い切り遊んでこそ生きる力を育むことができるのではないかと問いかけてくるのです。
しかも、決して押しつけがましく問いかけるのではありません。
生きる喜びとは何かと言う本質的なテーマを子供達だけの秘密の遊びの中で見出していくからこそ、途方もない感動を覚えるのです。
「秘密の花園」は数ある児童文学のなかでも傑出した名作であると言えるでしょう。
秘密の花園 (福音館文庫 古典童話)