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子育て中のママ・パパ向けに赤ちゃんの発達に関するマメ知識をご紹介します。
今回は、「はいはい」「たっち」「あんよ」などの運動機能の発達を訓練によって促すことができるかどうかについて解説します。
赤ちゃんの運動機能はトレーニングで早められるか?
「赤ちゃんの発達には個人差がある」と言うことは誰しも分かっていることだと思います。
例えば「あんよ」は個人差が特に大きく、生後10か月頃からできてしまう赤ちゃんもいれば、1歳6か月頃になってようやくできるようになる赤ちゃんもいます。
ひとりすわり:生後9か月
はいはい:生後9か月
つかまり立ち:生後11か月
ひとり歩き:1歳3か月
厚生労働省「平成22年乳幼児身体発育調査」より
同じ月齢の赤ちゃんを見て、「うちの子は、まだ『たっち』もできないのに・・・」と焦りを感じてしまい、ネットなどでトレーニング方法を調べて子供に実践させている親もいるようです。
しかし、そもそもトレーニングすることで、「あんよ」などの運動機能の発達を早めることはできるのでしょうか?
1.体が成熟する前のトレーニングは意味がないと証明した実験がある
この問いに対して、アメリカのゲゼルという心理学者が行った有名な実験があります。
ゲゼルは双子(一卵性双生児)の赤ちゃんに「階段をのぼる」という訓練をさせました。
A君は生後46週から訓練を開始し、B君は生後50週から訓練を開始しました。
しかし、階段が登れるようになった時期は、A君もB君も生後52週目だったそうです。
– | 訓練開始 | できた時期 |
---|---|---|
A君 | 生後46週 | 生後52週 |
B君 | 生後50週 | 生後52週 |
A君は4週間も早く訓練を開始したにも関わらず、できるようになった時期はB君と変わらないという結果から、ゲゼルは発達において訓練などの外的な要因よりも、心身そのものの成熟がより重要であるという結論を導きました。
2.トレーニングすることは本当に意味がないのか?
ゲゼルの導いた結論は「成熟優位説」と呼ばれています。
「成熟優位説」は、子供に何かを身に着けさせるための訓練を行うのであれば、その訓練を受けて実になるだけの発達段階に心身が達している必要がある、という考えです。
例えば、赤ちゃんに「あんよ」の訓練させたいのであれば、訓練で「あんよ」ができる程度まで心身が発達している必要があり、もしそうでないとすれば訓練を行っても無意味ということになります。
現実的にこのような状態に赤ちゃんが達しているかどうかを判別することは非常に難しいことです。
だからこそ「あの子ができるなら、うちの子もできるはず」と安易にトレーニングを始めても、それが全くの徒労に終わることもあるのです。
ただし、「成熟優位説」は今から100年近く前に提唱された考え方であり、現在は心身の成熟も外部環境も相互に影響し合って発達が進むと一般的に考えられていることは知っておいてもよいでしょう。
3.トレーニングよりも生活環境に着目しよう
先ほども述べたように、いくら我が子でも「この子は訓練できる発達段階に達している!」と判別することは事実上できません。
早く「あんよ」ができるようになるために、椅子につかまらせて立ち座りをするなどの訓練は全く無意味とは言わないまでも効果はかなり限定的であると思われます。
親が関われる時に特定の動きを繰り返すようなトレーニングをさせることよりも、赤ちゃんが自発的に運動したくなるような環境を作ることを主眼に置いた方が、結果的により長い時間体を動かすことにつながって心身の発達にも有意な影響を与えるでしょう。
たとえば、2~3個のおもちゃ箱を別々の場所において自然に部屋を行ったり来たりさせる、赤ちゃんが手を伸ばしてギリギリ届くくらいの高さに色々なおもちゃを置いておく、などです。(※転倒には十分気を付けましょう。)
また、「はいはい」ができるようになった赤ちゃんは、家の中ではママ(パパ)が抱っこして移動させるのではなく、「お着替えするからおいで!」などと自分で移動してもらうことも良い方法です。
「はいはい」や「あんよ」はいずれできるようになるので、敢えてトレーニングをする必要性はなく、日頃から活発に動いてもらえるような生活上の工夫をすることがより重要です。